最高裁判所第一小法廷 昭和38(オ)1458 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人日下基の上告理由第一点について。
所論は、原審がC商事株式会社(以下Cと称す)と上告人間の本件家屋の売買契
約解除の効力を判断したのは、当事者の申し立てない事項につき判決をした違法が
あるというのであるが、原審は、右売買契約の解除が被上告人らの抗弁の前提事実
となつていて、本件の争点の一つに属するところから、その判断を示したものであ
つて、原判決には何ら所論の違法はない。論旨は採るを得ない。
同第二点について。
所論は、Cと被上告人Bとの間の裁判上の和解で、同被上告人が昭和三一年五月
一六日から同月末日までの損害金支払義務を認めたものと認定判示した原判決には
理由不備の違法があると主張するものであるが、原判決の右認定判示は肯認できな
いものではなく、その間に所論の違法は認められないから、論旨は採るを得ない。
同第三点について。
所論は、上告人のCに対する売買代金債務不履行は、上告人の責に帰すべき事由
に基づくものではないと主張し、その理由として、上告人が主張した売買の目的物
につき換地もなく、補償も得られず、坪数も不足していたとの事実につき判断を示
さなかつた原判決は民訴法一九一条違反であり理由不備の違法があるというのであ
るが、原判決が引用する第一審判決は所論の点についてその採用し得ない旨を判断
しているものと解されるから、原判決には所論の違法はなく、論旨は採るを得ない。
同第四、五点について。
所論は、要するに原判決が、上告人にはその責に帰すべき事由によつて、賃貸人
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としての債務不履行があるとしたのは、法令の解釈適用を誤つた違法、理由齟齬、
理由不備の違法があるというのである。
しかし、他人の物の賃貸借が債権契約として有効であることは論をまたないとこ
ろであるが、他人の物の賃貸人といえども、賃借人に対し契約の目的に適合するよ
う適法な状態において安んじて目的物を使用収益させるべきであることも亦当然で
ある。従つて、賃貸人においてその物の所有者に対抗し得る何らの権原を有しない
ため、賃借人が、その物に対する使用収益に関して、現実に所有者から不法占有を
理由とする損害賠償の請求等を受けて、その責に任じなければならない事態となつ
たときは、賃貸人において賃借人の右責任を免れしめない限り双務契約における公
平の原則に照らし、賃借人は債務の本旨に従つた履行がないものとして、右使用収
益に対して賃料の支払を拒絶できるものと解するのが相当である。そして、本件に
おいては、判示のとおり、本件家屋をその敷地と共に訴外Cから買い受けた上告人
が売買代金を完済しなかつたためCより売買契約を解除され(解除の有効なことは
原判決が適法に判断したものであること先に説示したとおりである。)、その後に
なつて本件家屋を被上告人Bに賃貸したというのであり、ために被上告人Bは、訴
外Cから、右家屋の明渡と上告人が本訴で請求する賃料の発生期間を含む期間にお
ける本件家屋の使用収益に対して賃料相当額の損害賠償を求める訴の提起を受け、
これに応ずる趣旨の裁判上の和解をしたというのであるから、たとえ上告人におい
て、右賃貸借契約を締結する際には、本件家屋の所有権を有すると信じていたとし
ても賃貸人たる上告人において賃借人たる被上告人BのCに対する右損害賠償義務
を免れしめざるかぎり、上告人がその責に帰すべき事由により賃貸人として債務の
本旨に従つた履行をしなかつたものとして、被上告人Bは本件賃料の支払を拒絶で
きるものといわなければならない。従つて右賃料およびこれに対する遅延損害金の
支払を求める上告人の本訴請求を却けた原判決には何ら所論の違法はない。論旨は
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採るを得ない。
同第六点について。
所論は、種々の事項を指摘し原判決に法令違反ないし理由不備の違法があると主
張するけれども、所論はいずれも原判決を正解しないことによるもので、原判決に
は何ら所論の違法はなく、論旨はすべて採るを得ない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 岩 田 誠
裁判官 入 江 俊 郎
裁判官 長 部 謹 吾
裁判官 松 田 二 郎
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